【HRMエキスパートの視点】第8回企業はアカウンタビリティ(説明責任)から逃れられない

CHROFYは、「人的資本」や「人的資本経営」に関する専門家たちのご協力のもと、人事・経営に役立つ情報を定期的にお届けしています。

 

【HRMエキスパートの視点】では、事業会社の人事部門における実務視点と、HRMコンサルタントの視点の両面の視点をお持ちの株式会社Trigger 代表取締役 安松 拓也氏から、「人的資本」や「人的資本経営」に関する業界の動向や見解をご紹介いただいています。

第8回は、「いま、企業が問われる“説明責任”」をテーマについてお送りします。

 

日本の多くの組織の実情は・・・?

最近、地方の製造業中堅企業に対するご支援をする機会が増えています。特に製造業において、「年功序列的な人事・処遇により次世代を担う中堅・若手層の採用・リテンション(定着)ができない」、「製造業を取り巻く環境が大きく変わり、地道なモノづくりに加えて新たな挑戦や変革を志向する組織風土の醸成が必要」といった課題は、おおよそどの会社にも共通で、特に人材獲得・維持への危機感は、賃上げ議論が活発な世情と相まってここ1~2年で特に高まっているように感じます。それらの課題に対する打ち手として人事制度改定に関するお声がけをいただくことが増えているといういきさつです。

 

そのような企業様の話をうかがう機会が多くなって、つくづく感じていることが3つありました。それは、

  • 各社それぞれ素晴らしい技術があり、真摯にモノづくりに向き合う人がいること。そしてこの方々の丁寧な仕事が私たちの生活を支えているという実感と尊敬。
  • それと同時に、100名超あるいは300名超となるような比較的大きな会社であっても、人を生かすための基盤となる基本的な人事制度がなかったり、人材に関する情報の把握・管理がままならなかったりする状態が、かなり多くの割合で見られるということ。
  • そして、これらの問題に取り組んでいくための、人事のリソースやケイパビリティが社内にないケースが多いこと。

※もちろん、私がご一緒している中には、かなり先進的な、素晴らしい取り組みをされている製造業企業様もたくさんいらっしゃいますので、そこは誤解なきよう!

 

CHROFYのようなツール/サービスを活用し人材マネジメントに関する状態の可視化や、それに基づく人的資本経営に取り組んでいる「一歩先行く企業」が多数ある半面で、人を生かす基本的な制度基盤や人事情報管理の整備にまったく手が付けられていない組織がたくさんあるということです。いや、たくさんあるというよりも、(想像ですが)きっとそういった組織の方が日本の中では多くを占めるのではないかと思えてきます。

そういう組織が人材獲得競争に敗れ、社会的なリソース移転がされれば、社会の効率が上がったり、組織・人材の競争力がある企業が増えて行ったりする。これは市場原理における必定というのもひとつの見方です。

「ただ、本当にそれで良いのか?」

「組織の人事機能を強くすることを通じて事業の成長を後押しすることを志す者として、ここをこそなんとかせずして良いのか?」

そんな思いを感じている今日この頃です。

 

人的資本経営の潮流は、企業にアカウンタビリティ(説明責任)を突き付けている

この課題意識について、先日CHROFY社の皆さんとも意見交換しました。

「今般の人的資本経営の潮流は、この課題を解決する一助になるのか?ならないのか?」

「CHROFYのようなサービスプロバイダーがこのような企業に対して何かできることはないのか?」

 

人的資本に関して、今後、中小企業にも確実に影響が及ぶことと言えば、各種情報の開示義務がこれまでの大企業から中小企業にも広がっていく潮流はおそらく間違いないという点です。

例えば、女性活躍推進に係る「男女賃金格差の開示」については2022年7月から従業員数301人以上の企業を対象に義務化されていますが、さらに、2026年4月からは、これを100人以上の企業を対象に拡大することが予定されています。

これに対応するという意味においては、数値を求め、しかるべき開示を行うことはどの企業にもできることであろうと思います。ですが、問題は「なぜそうなっているのか?」「この事実を会社としてはどう評価しているのか?」「これからどうしていくのか?」のアカウンタビリティを、社外ステークホルダーだけではなく、従業員に対しても企業は同時に負うことになる、ということです。このアカウンタビリティを果たすためには、どう考えても「自社は何に基づき従業員を層別して処遇を決めているか?」「何に対して給与を払い、それをどう決めているか?」に答える術を持たないわけにはいきません。

 

いや、もし仮に開示義務がなかったとしても、この人材獲得激戦の折、働く人は自らが参画する会社を自ら選択するという意識のもとにあります。「役割に対する基本的な報酬水準がどうなっているのか?」あるいは、「業績に対する賞与はどのような考え方で決定されるのか?」「人事評価の尺度やプロセスは明確か?」など、働く条件・処遇が合理的であり納得性があることは、事業の継続・成長にもはや不可欠となりつつあります。極端に言えば、たとえ従業員1人の会社であっても、もはやそのアカウンタビリティから免れられない経営環境にあると断じて相違ないでしょう。

 

※参考:「企業情報の開示と組織の在り方に関する調査 2024」

 

“働く条件”に対する説明責任は、いまや経営の最重要課題

もしそうなのであれば、アカウンタビリティを担保するための基本的な制度基盤や人事情報管理の整備は、もはや人事部門だけの話ではなく、経営のトップイシューです。まずは重厚な仕組みではなく、シンプルなものから着手すれば十分です。社内に人事リソースがなくとも、必要に応じて社外の知見を一時的に活用し、何としてでも実装しなければならない、という結論になります。

 

そして、その実現をサポートするソリューションプロバイダーの選択肢が増えていくことも必要だと思います。

例えば、人事制度構築・改定に関する実務的な知見を持ち、中小企業に必要十分な粒度の制度を適当な価格水準で提供する存在がもっと増加することが求められます。一定規模以上の収益が求められる大手人事コンサルティング会社での対応が難しい場合は、もしかしたらその空隙を埋める存在として、私のようなフリーランス(一応法人化していますが・・)や副業として人事領域に関わる専門人材の増加が鍵になるかもしれません。

あるいは、人事情報の管理や整理をするためのツールのすそ野を拡大することも重要です。現在は、これらはまだ「一歩先行く企業」向けのツールという印象はありますが、一部のサービス/ツールには、企業規模や利用者のリテラシーに関わらず、より広範に普及し始めているものもあるように感じます。人的資本経営の潮流に後押しされて、こうしたツールのバリエーションがさらに増え、より手に取りやすくなることも大いに期待されます。(ビジネスとして成り立たせる難しさは当然あると思いますが・・・)

 

働く人に対する“働く条件”のアカウンタビリティは、もはや逃れられません。

だからこそ、企業がそのアカウンタビリティを果たすことによって、働く人と組織の信頼関係を高めていくことができると信じています。

私は人事制度構築・改定支援の立場から、これからその取り組みを始める企業・組織に対して、何ができるかを問い続け、より良い仕事をし続けていきたいと考えています。

 

 

 

安松 拓也(やすまつ たくや)株式会社Trigger 代表取締役

 

医療機器販売会社・ソーシャルメディア/ゲーム会社・大手精密機器メーカーにて人事の実務およびマネジメントに従事。各社いずれも経営変革の潮目に在籍し、事業戦略の実現を目的とした人事制度改革や人材育成施策の企画・立案・実行を主導してきた。多くのマネージャーや従業員に向き合ってきた経験から、企画のみならず導入設計・運用支援を重視している。現在は独立して活動中。

事業会社の人事部門における実務視点と、HRMコンサルタントの視点の両面から、CHROFYの製品開発の協力を行っている。

 

CHROFYは、今後も、人事・経営・IR担当者に向けて「人的資本」に役立つ情報を定期的に発信していきます。

何か「人的資本」や「人的資本経営」について、不明点やお悩みをお持ちの方は、ぜひ、お気軽にご相談ください。

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