CHROFYは、「人的資本」や「人的資本経営」に関する専門家たちのご協力のもと、人事・経営に役立つ情報を定期的にお届けしています。
【人的資本経営ストーリー作成塾】では、事業創造大学院大学 一守靖教授から、人的資本経営や人的資本経営のストーリーを作成する上でのポイントなどを解説していただいています。
「人的資本経営キャンバス」(図1)の作成に関して、前回は「企業の存在意義」欄から「経営戦略」欄までを解説しましたが、今回は、「人事戦略」から「人的資本指標(目標)」までを解説します。
人的資本経営において、「経営戦略」と「人事戦略」の連動は強く意識すべきポイントです。なぜならば、従来の「人的資本管理」は“人材の管理と実践”を重視していたのに対して、人的資本経営は“戦略と持続的成長”に重きを置いているといえるからです。
経営戦略を立案したら、その次に経営戦略を実現するために必要な「サブ戦略」を検討します。その1つに「人事戦略」があります。
改めて言うまでもなく、経営戦略は企業の成長や価値拡大にとって非常に重要です。しかしながら、今日のようなVUCA(不安定で変化が速く将来の予測が難しい)の時代には、経営戦略の「有効期間」も昔に比べて短くなってきています。そこで、経営戦略を実現する役割の一端を担う人事戦略も「柔軟性」がカギになると私は考えています。
人事戦略における「柔軟性」とは、
・組織構造の柔軟性
・組織能力の柔軟性
・個人の柔軟性です。
組織能力の柔軟性を保つためには、やはり人材の多様化の促進が効果的だと思います。もちろん人材の多様化(Diversity)には、人材のインクルージョン(Inclusion:多様性を受容し互いに作用し合う状況を目指す考え)が欠かせませんし、最近では人材の立ち位置の公平性(Equity:人の違いを認識したうえで、みんなが同じ結果を出せるように必要に応じて個々の前提を整えること)といった概念も登場しています。
人事戦略が固まれば、次に「⑦人材マネジメントの施策(アクション)」へ落とし込むのですが、その前に、「⑥人事戦略を実現するための課題の整理、または、目指すべき姿(To be)」を思い描いておきましょう。そうすることによって、目指すべき姿(To be)と現状のギャップが見えるようになり、目指す姿に向けての対策(=人材マネジメント施策)が検討しやすくなります。
人事戦略を実現するための課題を克服する、または、目指すべき姿に到達する人材マネジメント施策が設定できれば、最後に行うことは、いかに人材戦略の達成に近づいているかを測定することです。
人的資本経営そのものを測ることはできません。人的資本経営というのは、いくつかの要素から構成されている概念だからです。人的資本経営というのは、それ自体が実在するものではなくて、女性管理職や社員エンゲージメント、退職の状況、内部登用のような、それぞれ操作でき、それぞれ実在するいくつかの要素が人的資本経営を構成しているのです。そして、企業ごとに異なるこうした構成要素を測定することによってのみ、人的資本経営の全体像を得ることができるのです。
次回は、いよいよ本連載の最後回。「人的資本経営キャンバス」を用いた企業の事例をご紹介します。
一守 靖(いちもり やすし) 事業創造大学院大学 事業創造研究科 教授
慶應義塾大学経営学修士(MBA)、同博士(商学)。ヒューレット・パッカード、シンジェンタ、ティファニー、NCR等の外資系企業、ならびにbitFlyer等のベンチャー企業における人事部門の責任者としてジョブ型人事制度の導入、社員教育、組織文化の変革、人事部員の育成等を推進すると同時に、複数の大学院において教育・研究活動に従事。現在、事業創造大学院大学においてMBA学生を相手に「組織マネジメント/組織行動論」、「人的資本経営とDX」などを教えるほか、法政大学経営大学院兼任講師、富山大学大学院非常勤講師、ピープルマネジメント研究所代表を兼務。専門は人的資源管理論、組織行動論。
主な著書:「人的資本経営のマネジメント:人と組織の見える化とその開示」(中央経済社 2022年)
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